【15】 荒神舞(柴荒神)
天地陰陽の理を説き、天神・地神の由来を語り、山川草木の有様へと展開する。
【15】 荒神舞(柴荒神)
柴荒神問答
〔神主〕 惟時良辰に謹み再拝し
俯伏して掛けまくも畏き天照大神及び八百万の神達の広前に恐れ恐れ申すそもそも旧例に任せ百種最上の神酒を備え三才の源を動かし
平げく安らげく所
聞食と申す 彼の三才の源と伝うは混沌未分一団の元気陽気は清昇陰気は濁って降り二つに分かれて天地位しその別るるの
初天に化生なる神を名付けて天御中主尊と申し奉る
是則天地全体本源の神明也 天上の
御中にましまして天を
主給う名有って形無し天地自然万化の源 是を造化の神と言う 凡そ神道は天地開闢の本源を語るに理気前後を諭せず神名を稱じて天神の神号とし 地に在っては地の霊徳を稱じて
地祇の神号とす 故に神号を深く尊み篤く重んじ奉る神号に依って道を説く 大抵神道は天神唯一を以て語るに天道を説いては人事に移し人事を以て 天道を配合す 神と人と亦唯一也 是神道の要義にして天御中主尊 是神道の本源也と承り候
〔荒神〕 そもそも汝は何者にて吾御前に差しよせたそとは 怪しみ申すぞや 吾即ち天地陰陽不思議の始め混沌界より天地和合のじゅんきをきざし一霊の神性すでに
象成って一天三千界を成す 森羅万象悉く
吾御前がしょいに三界の棟梁とは
吾事なり汝事の所 以早々申せ聞かん
〔神主〕 去れば今月今日吉日
良辰を以て当社壇に於いて
天神地祗八百万の神々を勧請奉る
就中中之又神社神門大明神専一に恭敬法楽奉る 神代の違法御神楽不信懈怠なく興行一天泰平四海
静謐五穀豊穣御祈祷願い奉る折柄御神明の彼の
柴榊に出現ましましてござる
御柴事故なく
御免し下さるで御座ろう
〔荒神〕 如何にも神主申さる通り此の霊場に於いて
天津神地津神群諸神等を呼び中之又神社に招請され神代の古風御神楽を申さるの段殊勝千万也 之れに依って我柴榊に示現し神主の願わるる通り大願成就の段朗しとらするであろうぞ
併し我御前彼御柴に争い浮出たれば柴榊の本義
一件悉く神
主講申され
興
〔神主〕 然ればあらまし柴榊の義申し上ぐるでござろう それ彼の御柴とござるは
天照大神天磐屋に龍もりたもう節御怒り解きた
奉らんために
天児屋根命太玉命計略を以て
番山の
五百筒真坂樹を根越しにして天岩戸の御前に植えて三種を飾りたもうと承ってござる
上津枝には
八坂瓊勾曲を掛け中津枝には
八咫鏡を掛け下津枝には
青幣白幣を懸け
玉うと承ってござる然りしこうじて
天鈿女命 手力雄神思兼神 及び
八十諸の
神達御神楽を始め玉うと承ってござる 彼の御鏡及び勾玉
青幣白幣を飾り給うは如何なる事を以て飾り玉う哉御託宣成されよがし
聴聞仕りとうござる
〔荒神〕 如何にも神主
能所の不審也
夫此の三器を真坂樹に飾り玉う榊は宝器本記に曰く四時しおらず夏冬別しては茂故に真坂樹の義あり 御鏡は日神の表体曲玉は月神の表相宝剣は星宿の理を現し朝しかくの如く 然るに第三青白の和幣の説意義あれども
幣帛は
本従天津金木と稱する時は金なり剣なり 是を以て
御劔帯を掛け玉うと謂うなり此れ三神三天の表相
就中三通頒文あり 神主演談敦されよ
〔神主〕 御託宣殊勝千万に聴聞仕る 御神徳の程驚き奉ってござる 彼の三天の表相三種に付き三通の頒文と御座る 荒まし申し上ぐるで御座ろう夫れ曲玉は
仁恩淳和の徳を表わし御鏡は
清明神道の徳を表わし 霊剣は正直決断の徳を表わす
一書に日く
皇天盟いて宣わく
八坂瓊勾曲が如く妙なるを以て
御宇政治め
真津鏡の如く
分明を以て山川海原を
看行即ち
霊き剣を天下平らげ万民と
利せよと言
寿玉う
此の如く御座る 扨亦三種の神宝に付き
三箇の御神詠御座ると承ってござる 事の
序でに御示し下されよがし 得心仕りとう御座る
〔荒神〕 最もの願い信心千万に思いは
待 甚深微妙の神歌
成共吟じ授くるであろうぞ
慎んで
聞得めされい
神璽 あわれみの深き心の玉なれば 天の御孫にそへて
降しつ宝剣 これはまた国を治むる
剣とておなじ
御床に奉りきや
内待所 宿す影一つのちの残らぬを心にせよとおくる鏡を
此の如く彼の御神詠を
唱吟時は 天人地三才共に清明にして国家泰平ならん 神代の
往昔大神の
御慍を休め給いて再び温潤の仁徳を以て天下を平らげ また
八咫鏡の如く明らかに照らし給いて諸々の
神等のねんごろに祈祷申し給う心を
看行 うず女の命
茅纏の
矛を以て戯れ舞い遊び玉いしも此の
所謂なり今託宣して
日神の至徳を賛嘆する者也 亦三種三才に配当したる融通の神語あり 神主演説申されよ
〔神主〕 御託宣有り難く得心仕って御座る 然れば三才和同の神語 天人地配当の訳あらまし申し上げるで御座ろう 曲玉は水徳にして一霊の元是れ天也 御鏡は陽物火徳にして土を生ず是れ地也 青白の幣帛を一つに掛け玉うは是れ陰陽の躰人倫運命にして魂晩是れ也 かるがゆえに
日月は天地の魂塊也 魂塊は日月二神の霊性也 本文に日く 元気円満神べん加持一霊感應神通加持性命成就神力加持三才和同の神語
此の如く 怠慢なく彼の神語を唱うる時は 元気万世に融通して
絶不一霊末世に卓然たり 性命は天地山海草木器財まで時を
違不 人物も断絶せず 是れ神道の
大極也と承る 亦柴と
伝うは三種の題号榊の題目で御座る 例えば歌の言葉に久方とは天と讀む枕言葉神とは千早振る 柴とは榊の異名を申して御座る
最早御柴の義大概相済んで御座れば御許し下されよがし 大願成就仕りとう御座る
〔荒神〕 成程殊勝な神主恭敬再拝いたし祝詞申されよ 我御前託宣を以て
免しとらすであろうぞ
〔神主〕 曰く催馬楽 掛けまくも
畏き天照大神を根本の
御トに勧請法楽奉る
古例に任せ
種々のれいぐを備え御神楽を奉じ
天津祝詞大祝詞を以て
稱辞意奉る
弥一天大平四海
静謐風雨順時五穀豊穣別して今日の本願主延寿生福子孫繁栄 寿は
亀鶴よりも永く栄えは
松柏に諭し一家安穏
常磐堅磐に守り幸玉へと恐れみ恐れみも申す
〔荒神〕 そもそも汝能く聞け 自己の心をくわんぜるが故 或いは鬼神のもう
形と現じ一切のくげんをふれ
行事ぞがし 亦正直淳和にして自己の心を祭る時は智福自在にして諸願成就の徳を與えん 汝尊敬する所のしゆじやうに
依ついに
免しとらせん
歌− 榊葉のいつのときにかおいそめて天磐戸の口となるらん
以上は「令和二年三月 米良山の神楽 調査報告書」(編集発行:西米良村教育委員会、西都市教育委員会、木城町教育委員会、米良山の神楽記録作成調査委員会)より転載
【17】 四人神崇舞
剣の呪力により四方を祓い清める舞。
【17】 四人神崇舞